ASI Economyとは?孫正義氏の2040年予測と中小企業のAI投資判断

この記事の概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象読者 | 従業員5〜100名の中小企業経営者、DX担当者 |
| 対象テーマ | 孫正義氏の2040年予測と、そこから逆算する中小企業のAI投資判断 |
| 想定読了時間 | 約12分 |
| 最終更新 | 2026年9月3日 |
| 出典基準 | 講演内容はソフトバンク公式サイトの講演レポート2本を取得し、引用文と数値を逐語で照合。中小企業への適用に関する記述は、かなうテックの整理であることを本文と注記で明示 |
「期限と数字」で語られた2040年
2026年7月14日のSoftBank World 2026で、孫正義氏が2040年の見通しを語りました[1]。 講演は、経営者に向けた注文から始まっています[1]。
『たくさん』『すごく』という曖昧な形容詞ではなく、より鮮明なビジョンがなければ具体的な戦略は立てづらいのです
この前置きのとおり、講演で示された内容は期限と数字の形をとっています。 公式レポートに記載された主な数字は次のとおりです[1][2]。
| 項目 | 2040年の予測 |
|---|---|
| 世界GDPのうちAIに置き換わる割合 | 約20% |
| その金額 | 年間約7,000兆円 |
| そこから生まれる利益 | 利益率50%近くなら年間約3,500兆円 |
| 常時稼働するAIエージェント | 100兆個 |
| ヒューマノイド | 10億台(人間に換算して100億人相当の仕事) |
| AIデータセンターの消費電力 | 3TW |
| AIインフラへの投資 | 年間5兆ドル(約800兆円) |
この桁の数字が、そのまま中小企業の投資判断の材料になることはありません。 7,000兆円の市場に自社が参入するかどうかを検討する経営者は、まずいないはずです。
それでも講演を読む価値があるのは、数字そのものではなく、数字の使い方が示されているからです。 持ち帰れるものは3つあります。 20%という予測をどう検算するか、投資対効果をどの期間で測るか、そして誰と競争しているかです。
20%という数字をどう検算するか
外部の予測を経営判断に使うとき、当たるかどうかを議論しても結論は出ません。 どういう理屈で出た数字かがわかれば、自社に当てはまるかどうかは判断できます。
孫氏は、20%という数字の根拠を過去の革命との比較で説明しています[1]。
かつてインターネットは、世界全体のGDPのわずか1%である『広告』の領域を置き換えたに過ぎなかったのですが、GAFAMに代表されるような巨大な時価総額企業を生み出しました

図1:置き換わる領域の幅。インターネットはGDPの1%、2040年のAIは20%という見立て
置き換えられた領域はGDPの1%で、生まれた企業の規模はそれをはるかに超えました。 今回の予測は、置き換わる領域そのものが20%になるという見立てです。 同じ講演では、インターネット革命について「最初の20年でほとんど勝負は決まりました」とも述べられています[1]。
この理屈には、中小企業が検算できる部分と、できない部分があります。
| 論点 | 中小企業に検算できるか |
|---|---|
| 世界GDPの何%がAIに置き換わるか | できない。前提が多すぎる |
| 自社の売上のうち、AIが担える工程が何%あるか | できる。工程を数えれば出る |
| 同業がその工程を自動化したとき、価格がどう動くか | ある程度できる。過去の値下げ局面と比較できる |
20%という数字を信じるかどうかは、投資判断の入口としては筋が悪いといえます。 自社の売上のどの工程が置き換わるかは、社内の資料だけで数えられるからです。 検算できる問いから入ると、予測が外れた場合でも判断は無駄になりません。
奪うのは競合であって、AIではない
講演のなかで、中小企業の経営に最も直接効く一文はここです[1][2]。
AIに仕事を奪われるのではない。AIを使う企業に、AIを使わない企業が仕事を奪われるのだ
孫氏はこの発言に補足を付けています[1]。
世界全体のGDPは成長を続けます。したがって仕事自体がなくなるわけではありません
仕事の総量が減るという話ではなく、仕事の行き先が変わるという話です。 主語がAIから同業他社へ置き換わると、経営者が見るべき相手も変わります。 相手は技術そのものではなく、同じ商圏で同じ顧客に見積書を出している会社です。
市場規模の予測は当たり外れがありますが、同業との相対的な速さと単価は、来期の受注で結果が出ます。 2040年を待たずに答え合わせが起きる点で、この論点だけは他と性質が違います。
Return on AIという評価軸
講演の締めくくりで、孫氏は経営者に新しい指標を提案しました[1]。
従来の『ROA(Return on Assets)』ではありません。『ROA(Return on AI)』です。AIに投資をした結果、生産性がどれだけ上がり、どの程度の収益価値を創出できたかを測る物差しです
Return on AI(ROA)は、投資額に対する売上ではなく、生産性と収益価値の増分で測る指標として説明されています1。 続けて、測る期間が指定されました[1]。
ROAは短期間の物差しではなく、3年ほどのスパンで計算してください。その中で投資を超すリターンが来ると信じたならば、とことんやるべきです
指標の名前より、期間の指定のほうが実務に効きます。 中小企業のAI導入がつまずく場面を並べると、原因が道具の性能ではなく評価期間にあるケースが目立つためです。
典型的な流れはこうです。 4月にツールを導入し、7月の会議で「思ったほど効果が出ていない」と報告され、9月には使われなくなる。 このとき、AIが働いていなかったわけではありません。 初年度の作業の大半が、業務の棚卸しと手順の標準化に費やされていただけです。
標準化は削減額として表に出ません。 それでも先に済ませる必要があるのは、自動化の効果が工程の安定度に比例するからです。 手順がばらついたまま自動化すると、想定外の入力がそのつど例外になり、処理が人手に戻ってきます。 安定しない業務をそのまま自動化することは、混乱を高速化することと同じです。
| 判定のしかた | 3か月で測る | 3年で測る |
|---|---|---|
| 初年度に見えるもの | 削減額が小さく、失敗に見える | 標準化できた業務の数が増える |
| 標準化の扱い | 成果に数えられない | 翌年の効果の前提として数える |
| 出る結論 | 効果がないので止める | 対象を次の業務へ広げる |
| 3年後の状態 | 導入前とほぼ同じ | 人を増やさずに件数を増やせる |
止める判断そのものが悪いわけではありません。 効果の出ない自動化を惰性で続けるほうが、損失は大きくなります。 問題は、標準化しか進んでいない時期の数字で、その後の3年分を判定してしまう点にあります。
3年を、何で測るか

図2:3年で測る場合の階段と、3か月で判定した場合に打ち切られる位置
3年で評価すると決めても、途中の2年間を無計測で過ごせば、それは先送りと変わりません。 かなうテックが支援先に提案している測り方は、年ごとに測る対象を変える形です。 以下は講演で示された方法ではなく、支援の現場で使っている整理です。
| 年 | 測る対象 | 測り方の例 |
|---|---|---|
| 1年目 | 標準化できた業務の数 | 手順書がある業務の件数、入力形式がそろった帳票の数 |
| 2年目 | 人の確認を挟まずに完了する工程の数 | 承認が必要な件数と、自動で完了した件数の比 |
| 3年目 | 人を増やさずに扱える件数 | 1人あたりの月間処理件数の推移 |
金額に換算するのは3年目で構いません。 1年目に金額を求めると、削減額を作るために効果の薄い業務から着手することになり、順序が崩れます。
測る前提として、導入前の数字が要ります。 所要時間と件数を、導入の前に1か月分だけ手で記録しておくと、あとの判断がまるごと楽になります。 この記録がないまま導入した場合、3年後に効果を説明できるのは体感だけになります。
100兆個のエージェントを、自社の言葉に直す
2040年に100兆個のAIエージェントが常時稼働するという予測は、台数のままでは自社の話になりません[1]。 翻訳の鍵は、孫氏がその数字を導くときに使った業務の捉え方にあります[1]。
我々が行う業務は、大体10個から100個程度のタスクを繰り返すものが大半です
エージェントの数は、人の数ではなくタスクの数から出ています。 中小企業がこの見方を借りると、規模に関係なく同じ物差しが使えます。 主要業務を10個から100個のタスクに分解し、そのうち何個が人の確認を挟まずに終わるかを数えるだけです。
いま多くの職場で起きているのは、その手前の使い方です。 担当者がAIに質問し、返ってきた文章を読み、別の画面へ手で転記する。 この形だと、AIがどれだけ速くなっても、人が読んで転記する時間が全体の速さを決めます。
先へ進むには、AIの出力が次の工程へそのまま渡る形にする必要があります。 見積書の作成であれば、担当者が結果を読む工程ではなく、案件情報から金額を組み立てて申請まで進む工程を対象にします。
全部を任せる話ではありません。 任せる範囲を広げるときは、人が承認する箇所と、異常時に止める条件を先に決めておきます。 どの業務なら任せられるかの見分け方は、AIエージェントに任せられる仕事の4条件とループ設計で整理しています。
攻めと同じ会議で、守りを決める
同じ講演では、AIを使う側の話と並べて、AIに攻撃される側の話も報告されています[1]。
自社の何十億行というシステムコードに対し、AIによるサイバー攻撃テストを行った結果、実に『1万500件』の脆弱性(サイバー攻撃の穴)が検出されたのです
さらに、ソフトバンクが63社を対象に脆弱性診断を実施したところ、脆弱性がゼロだった会社は1社もなかったと述べられています[1]。 同社はこれを受けて1,000名規模の専門部隊を作り、国内の重要インフラを担う企業3,000社を守る体制に入ったとされています[1]。
中小企業がこの数字から取り出せるのは、体制の規模ではありません。 1,000名の部隊も、3,000社の対象にも入らない会社のほうが多いからです。 持ち帰れるのは、診断した63社すべてに穴があったという前提のほうです。
自社にも穴がある前提で運用を組むと、優先順位は自然に決まります。 退職者のアカウントが残っていないか、業務で使うSaaSの管理者権限が誰にあるか、バックアップから実際に復元できるか。 AIの導入判断とこれらは同じ会議で決めておくほうが安全です。 自動化を進めるほど、1つのアカウントが持つ影響範囲が広がるためです。 かなうテックの体制についてはセキュリティへの取り組みに記載しています。
15年後を考えるための3つの問い
講演は、逆算の勧めで締めくくられています[1]。
15年後の姿から逆算して、今こそ準備をしていくべきだと思います
業界の15年後を、技術の予測から考え始めると手が止まります。 自社の売上の構造から入ると、来月の行動まで降りてきます。
- 自社の売上のうち、AIが担える工程はどこにあるか。見積、提案書の下書き、問い合わせの一次対応、報告書の作成のように、工程の名前で挙げる
- 顧客が支払っている金額は、何に対する対価か。作業時間に対してか、判断や責任に対してか
- 同業がAIを使い始めたとき、最初に価格が崩れるのはどのサービスか
3つ目の答えが自社の主力サービスと重なる場合、対応の優先順位はそこになります。 競争が起きる場所と、自動化を始める場所を一致させるためです。
2つ目の問いは、値付けの見直しにつながります。 作業時間に対する対価であれば、その工程が自動化された時点で単価は下がります。 判断や責任に対する対価であれば、作業が速くなっても単価は残ります。
明日から始める3ステップ
| 手順 | やること | 所要時間の目安 |
|---|---|---|
| 1 | 対象の業務を1つ選び、現状の所要時間と件数を1か月分記録する | 1日5分 |
| 2 | その業務を10個から100個のタスクに分け、例外がどこで発生するかを印で示す | 60分 |
| 3 | 人が承認する箇所と、異常時に止める条件を決めてから自動化に着手する | 60分 |
順序を入れ替えないことが肝心です。 記録より先に道具を選ぶと、効果を測る基準がないまま運用が始まります。
ありがちなつまずきも挙げておきます。
| つまずき | 何が起きるか | 処方 |
|---|---|---|
| 全社一斉に導入する | どの施策が効いたのか切り分けられない | 1業務で測ってから広げる |
| 3か月で効果を判定する | 標準化しか進んでいない時期の数字で止めてしまう | 1年目は標準化できた業務の数で測る |
| 効果の出やすい業務から選ぶ | 削減額は出るが、主力業務の競争力は変わらない | 価格が崩れるサービスから着手する |
| 自動化の範囲だけ広げる | 権限を持つアカウントの影響範囲が広がる | 停止条件と権限の棚卸しを同時に決める |
導入の順序をもう少し詳しく知りたい場合は、DXは「道具選び」じゃない。業務の再構築だ。で考え方をまとめています。
まとめ
孫正義氏が示した2040年の数字は、中小企業がそのまま使える経営指標ではありません。 実務に持ち帰れるのは3点です。 予測は自社の工程数で検算すること、競争相手はAIではなく同業であること、投資対効果は3年で測ることです。
いずれも今期の判断を変えます。 検算のしかたは着手する業務の選び方を変え、競争相手の定義は優先順位を変え、評価期間は続けるかどうかの判定を変えます。 2040年を待つ必要はありません。
自社のどの業務から着手すべきか整理したい場合は、DX導入支援からご相談ください。
出典
- ソフトバンク ビジネスブログ「2040年『ASI Economy』への道筋。孫正義 特別講演レポート」(2026年7月16日掲載) softbank.jp/business/content/blog/202607/sbw2026-softbank-son-main-keynote (2026年9月3日確認)
- ソフトバンクニュース「2040年には、世界GDPの20%を生む『ASI Economy』に。企業はどう備えるべきか ー SoftBank World 2026 孫正義 講演レポート」(2026年7月23日掲載) softbank.jp/sbnews/entry/20260723_01 (2026年9月3日確認)
注記:本記事の引用文と数値は、出典1と出典2のソフトバンク公式サイト掲載の講演レポートから逐語で照合したものです。筆者は講演を直接聴講しておらず、公開レポートの記載を根拠としています。2040年の予測は孫正義氏の見解であり、実現を保証するものではありません。3年の測り方、20%を検算する3つの論点、15年後を考える3つの問い、明日から始める3ステップは、かなうテック(屋号:Kanau Tech™)が支援の現場で用いている整理と提案であり、講演で示されたものではありません。 図1と図2は、講演で示された数字をもとに本記事のために作成した概念図です。
Footnotes
-
会計で使われるROA(Return on Assets、総資産利益率)と略語が同じです。社内で使うときは英字を併記しておくと、経理との会話で混乱しません。 ↩
